SSブログ

降りてくる沈黙 [ドイツ2010]

「音楽は、音と沈黙でできているもの。沈黙を愛せない人は音楽も愛せない」

…中学1年、合唱人生で初めてのクリスマス礼拝の聖歌隊練習中に、指揮者の先生に言われた言葉です。言ったのは音楽の先生ではなく地理の先生。「ふっ…なんてキザ」と鼻白んだ一方で、お喋り大好きな私には実に印象的な言葉で、しかもその先生には授業の際にも沈黙についてお話を伺ったりなんかしたこともあり、「沈黙」というのは私には割と重要なキーワードだったりします。

ドイツを旅行すると、よく教会を見つけて中に入ってみます。この教会「当たり」だな、と思うのは、ドイツに限らず(日本でもたまにある)きれ~いに清掃・整頓されて余計なものがなく、そして中に人がいようがいまいが、絶対的に「沈黙」が支配している教会。耳鳴りで頭が割れそうなくらい静かな空間。イメージ分かっていただけるだろうか…ケルンの大聖堂は残念ながらそうなっていないのですが(でも私には落ち着く場所です)、旅先で「当たり」の教会に遭遇すると、自分が旅行中であることを忘れ、何だか懐かしい場所に戻ってきたような気分になります。

今回のドイツ旅行でも数か所、そんな教会に入りました。

最初に泊まった、ハイデルベルクの隣町にあるカトリックの教会。祭壇奥にある十字架の背景がうっとりするようなブルーで、木の椅子、木のオルガン。肌寒い日だったこともあり頭の中で耳鳴りのように響き続ける沈黙でした。10年前、留学するためにドイツに来て初めてカトリックのミサに出たのがこの教会。東京でのあれこれから逃げたくて出てきた今回の旅、そんなあやふやな動機で旅を始める私に、気をつけて回っていらっしゃい、と言ってもらっているような気がする空間でした。

ニュルンベルク旧市街の入口にあるイエズス会の教会。戦災で焼けおちた後に再建された、モダンで光のたっぷり入る聖堂を覗いてみると、ちょうど夕方のミサが始まる直前で、しかも平日なのに大盛況。ジーパンにビーチサンダルの上から司祭服をお召しになった若い神父さんのバイエルン訛りの説教、オルガンの甘い響き、聖歌隊のしっかりした歌声、元気に祈り歌う会衆。ミサが終わったあとも自然に人の輪ができて、でも祭壇横の聖母子像を眺める旅行者(私)はそっとしておいてくれる、何とも心地の良い教会でした。町を去る朝、誰もいない聖堂を再び訪れて、降りてくる沈黙を思い切り浴びました。

最後に泊まった南独某所にある聖堂。留学中、文字どおり「駆け込み寺」のようにご厄介になっていた場所です。ここに戻ってきたくてドイツ旅行を計画したようなもので、電車の中から教会の塔が見えただけで絶叫(心の中でね…)。木の椅子に座ってじっとしていると体の芯まで冷えてしまう寒い晩夏でしたが、暖かく迎えてもらっている気分にさせてもらえました。ここのオルガンの絵葉書を私は自宅に飾っていて、その音色も大好き。聖堂入口前の石段に腰かけてぼ~っと景色を見ながら考えごとをするのもお気に入り。早朝は霧の立ち込める林、昼間は澄んだ青空の向こうにアルプスの山並、夜は満天の星と、絶景をこれでもかと堪能できるベストスポットなのです。

旅の最後の日、夜の冷たい空気の中で、暗くなっていく空を見ながら、なぜか涙が溢れて止まらなくなりました。旅の空で考えたこと、心に飛び込んできた言葉の数々、自分と向き合って思ったこと、そもそも自分とじっくり向き合えたこと…沈黙の中で自分の中のあれこれが整理され、東京に戻っても良い子でやっていける! という安らかな気持ちと、まだ戻りたくないよ~! という名残惜しい気持ちがないまぜになっていたようです。ドイツを去る朝、聖堂の中で鐘の音を聴きながら静かに時を過ごしました。力強く送り出してもらったような気分でした。30分以上いたかな。すごく贅沢な時間でした。

人でも空間でも、そして音楽の中でも、沈黙はすごく多くのことを語るものです。巡り合った「沈黙する時間・空間」を懐かしく思い出しつつ、いつも声なき声を聞く心の余裕を持てたら良いな~と思う今日このごろです。
nice!(0)  コメント(3)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 3

おすぎ

ご無沙汰しています☆

久しぶりにお邪魔したら冒頭の一文に目が留まりました。
ひょっとして…?
自分ではすっかり忘れていましたが、確かにそんな意味のことを言ったような気がします。書かれているほど「キザ」な言い回しではなかった気がしますが…(笑)

久しぶりのドイツ旅行、よい時間を過ごされたようですね。
現在の自分を再確認できる「場所」があるというのは素晴らしいことですね。
ようやくゆっくりと思索に耽るのに適した気候になりました。
私も今、思いがけないところで昔の自分に出会ったような不思議な気持ちを味わっています。自分の言葉を反芻しながら芸術の秋を迎えたいと思っています。

11月27日に神戸の小さなサロンで、シューマンの「詩人の恋」と「リーダークライス」を歌うことになりました。ご報告まで!

by おすぎ (2010-09-23 23:45) 

hilde_nana_

おすぎ様

まさかのご本人登場♪
いやーあれは衝撃的でしたよ。この学校はこんなキザな教員を採用するのかと(爆)。
とにかく「沈黙」と縁のない学校でしたからね~。今でもそうみたいですけど。

11月27日だったら私も神戸にいますよ。
昼間であればお邪魔できるかもしれないので、よろしければご案内くださいませ。
by hilde_nana_ (2010-09-24 12:32) 

おすぎ

「キザ」という言葉も最近あまり耳にしなくなった気がします。
そのうち生徒に「キザって何ですか?」と訊かれる日が来るかも知れませんね。

リサイタルの話、この時期はひょっとしたら神戸に来られるかなぁと思って一応お知らせしたのですが、あいにくこちらも夜なのです。
またの機会がもしありましたらまたご案内しますね。




by おすぎ (2010-09-25 10:11) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

8月の読書記録9月の読書記録 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。