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海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年1~6(塩野七生/新潮文庫) [読書]

「栄枯盛衰が歴史の理(ことわり)ならば、せめてはこのヴェネツィアのように、優雅に衰えたいものである」

ドイツに1年間いたのに、イタリアへ行ったことがありません。
学生時代はドイツで一杯一杯だったのだと思います。イタリアはドイツよりも歴史があるし、ドイツでこれだけ目一杯なのに、イタリアへ乗り込んだら大変なことになるだろうと思うと気が遠くなったりもしていました。
音楽や美術も、ドイツで生まれたもののほうが好きになりました。デューラーやクラナハの生真面目で若干顔色の悪い人物描写。バッハやブクステフーデのゴシック建築みたいなフーガ。いつも太陽が照っているアルプスの向こう側では、もっと明るくて突き抜けた文化芸術が生み出されていたのを知りつつも、何だか別の世界のことのように感じてしまう。
生きている間に、しかもそこそこ若いうちに、必ず行ってみたいと思ってはいるものの、実際に訪れるのはまだずっと先のような気がしているのがイタリアです。何なんでしょう、この距離感。

大学でドイツのことを勉強しようと決めたころから、塩野七生という文筆家は特別な存在でした。せっかく外国のことを勉強するのであれば、本が書けるくらいに突き詰めて勉強したいなと高校生ながらに思っていたのを覚えています。実際に勉強してみるとレポートひとつ書くのもエネルギーのいる作業で、コンスタントに調査・執筆を続けることの偉大さを大人になるにつれて痛感し、今でも書き続けているこの人のパワーに圧倒されます。

塩野さんの初期の作品「ヴェネツィア共和国の一千年」が今年の初夏、文庫になりました。この本がなかったら、共和国が一千年も続いたという事実すら知らなかったかもしれない。なぜに塩野さんがこの都市を取り上げようと思ったのか、またヴェネツィアという都市の持つ、イタリアをよく知らない私でも惹きつけられてしまう魅力はどこから来るのか、教えてもらいたくて手に取りました。

読み終わってみて感じたのは、これはフィクションかファンタジーなのではないかということです。ふとしたきっかけで潟に住み着いた人々が都市を形成し、合理的な手法で共和国を運営し経営する。商業も外交も打算的で効率的。取り立てて繁栄するわけではないけれど、着実に存続し成長を続ける国家。よく動く船と強い海軍。オスマントルコを圧倒したレパントの海戦、宗教改革や大航海時代、そしてフランス革命に揺さぶられながらも生き続け、最後は若きナポレオンの手によって滅びる…
最後の最後まで共和制のスタンスを捨てようとせず、大きな貧富の差を生まない国家経営。一箇所に権力を集中させない政治制度。キリスト教・イスラム教との絶妙な距離感。「海との結婚」に代表される独自の文化。何よりヴェネツィアの民であることに誇りを持ち、自分達の身の丈を知り、極限まで合理的に国家を存続させた経営手法が、もう本当に経営としか言いようのない、しかも現代の我々から見ても組織を分かってるなあと感心させられるその手法が、偉大でもない市民達の手で生み出され、育まれてきたというのは驚きです。
歴史の中にこんな国が存在し、滅びたという物語があったら魅力的だろうな、と思わせる要素を、ヴェネツィアは余すところなく持ち合わせていました。塩野さんの書き方が魅力的だった、というのもあるかもしれません。でも、今あるヴェネツィアの姿に少なからず惹かれるのは、やっぱりヴェネツィアが美しい物語を持つ都市だからなのではないかなと感じます。研究対象としても、物語の舞台としても美しいヴェネツィア。読みながらいろいろなことを空想するのも楽しい時間でした。

海の都の物語〈1〉―ヴェネツィア共和国の一千年 (新潮文庫)

海の都の物語〈1〉―ヴェネツィア共和国の一千年 (新潮文庫)

  • 作者: 塩野 七生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/05/28
  • メディア: 文庫


↑文庫の1巻だけリンク置いときます
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