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リプレイ(ケン・グリムウッド 杉山高之訳/新潮文庫)再読 [読書]

「彼女が電話を切ると、そのガチャンという音がジェフの耳に鳴り響いた。
 彼は人生の大部分をやりなおす機会を与えられた。しかし、この一日をもう一度やりなおすことができたら、そのすべてを犠牲にしてもいいと思った」

最近話題の「のだめ」全巻を借りた友人に、マンガを返却する際に何か本を添えようと思い、久々に書棚をいじってみた。脈絡もなく平積みになっている文庫本たち。山脈をなすその光景はまさに宝の山。さて、自分はどこから読み返そうか。で、選ばれたのは「リプレイ」。大学卒業前に、ブックオフで買った初めての本。

主人公ジェフは43歳のある日、ラジオ局での仕事中に心臓発作で死んでしまう。…と、次に目が覚めると学生時代の寮の部屋で朝寝から覚めたところ。時間が25年巻き戻り、18歳に戻ってしまったらしい。最初は戸惑っていたジェフも次第に調子に乗ってきて、結果を記憶している競馬や株、ワールドシリーズや大統領選なんかのギャンブルでアホ勝ちし大富豪に。起業して成功したのと引きかえに、オリジナルの人生では妻だったリンダには出会ったその日にソッコーで振られてしまう。別の女性と結婚し、子供も生まれ、そこそこ幸せ。…と思っていたら43歳の同じ日、同じ時刻にまた心臓発作で死んでしまう。次に気が付くとまた学生時代。ええっ! また!?
だんだんに巻き戻る時間が短くなりつつ、人生の「リプレイ=再生」を繰り返すジェフ。やがてちょっとしたきっかけで、同じくリプレイを繰り返している女性・パメラと知り合う。リプレイの謎を解くため、状況を打開するため、そして自分たちが現在の人生で起こしたことが死んだ瞬間になかったことになってしまうという絶望感に折り合いをつけるために、だんだんに親しくなる二人。
それぞれの「リプレイ」で出会う人々、できごと。自分たちが経験として知っている「未来」を教訓として、現在の世界を変えようとする試み。リプレイのタイミングは10年前になり5年前になり、そして…。とにかく続きが気になって、せっかくの神戸旅行のあいだ、大好きな阪急電車に乗っても車窓風景など見ることなく没頭して読了。
SFであり幻想文学であり、60年代~80年代の流行や音楽、ニュースがふんだんに盛り込まれているという意味では懐古小説でもあり、ハリウッドとディズニーと5番街を生んだアメリカらしい、エンタメ小説でもあり。たった一度しかない人生をどんなふうに生きるか問いかける作品でもある。いろんな読み方ができて、ジャンルを特定することはできないような。エグいベッドシーンがあったり、目を覆いたくなるような悲劇的なプロットもあったり、人間のイヤな部分もリアルに描いてもうお腹いっぱいになるくらい「リプレイ」の繰り返しを見せつけられると、ラスト近く、ジェフのモノローグという形を借りて書かれるオチもイヤミっぽくならない。ネタばらしになりますが少し引用します。

「ジェフは、再び予知不可能になった外の世界の新鮮な電波の流れが、自分の体を突き抜けるのを感じた。ニュースライターの一人が慌ただしくそばを通り抜け、緑色の速報用紙を急いで気送システムに挿入した。なにか重要事件が起きたのだ―もしかしたら災害か、あるいは人類に役立つ途方もない発見か。何はともあれ、それはほかのみんなと同様に自分にとっても新しいものであると、彼は知った」

明日が来ること、未来が全ての人にとって平等に未知であることを、一冊の小説に教えてもらうのって何だか安っぽい感じがする。彼らが経験した理不尽な時間の歪みは、もともとフィクションなのだから。でも、本の中とはいえこんな数奇な人生にモロに感情移入してしまった読者にとって、やっぱり未来はキラキラして見えるんじゃないかなあ。フィクションだとしても、読書ってそんなふうに、読む人に影響してくれるんじゃないかなあ。それに、もしかしたら世界のどこかに、実は「リプレイ」中の人がいるかもしれないし。
そう、読み方は自由。ジャンルなんか特定せず、読者に特定の読後感も押し付けない。本の分厚さや物語のスケールの大きさとは裏腹に、ユルユルと変幻自在な作品だったりする。

リプレイ

リプレイ

  • 作者: ケン・グリムウッド
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1990/07
  • メディア: 文庫

同じく新潮文庫、北村薫の「時の三部作」表紙のレイアウトに注目!!

スキップ

スキップ

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1999/06
  • メディア: 文庫


ターン

ターン

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000/06
  • メディア: 文庫


リセット

リセット

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/06
  • メディア: 文庫


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