ハムレットその後

復讐に生きた悲劇の美男子、ハムレット。腕を組んで人生最大の選択に悩む貴公子の青白い額には、繊細なシワ。
そんなかっこいいもんじゃなかったです、ここ数日の私。悩みごとがあるとすぐお腹が痛くなるため、お粥とかスープとかのお世話になること数回。やっとひと段落しました…

5年前に去った旅行業界。あのときのあれこれがやっと自分の中で整理できつつあること、今の仕事がイマイチしっくり来ないこと、それでもなんとなく社会人として一人前っぽくなってきたこと、そろそろ三十路も近いこと、などなどがキッカケとなり、この秋に転職活動をしました。旅行業界か、モノを書くことにこだわった仕事のどちらか。応募してみて採用された会社が「呼ばれてる」場所なんだと、まずは運を天に任せて活動をスタートしたのでした。
いざ動いてみると、やっぱり旅行業界は魅力的でした。お給料は少ないけれど、だからこそ楽しく、やりがいをもって仕事している人たちの、楽しそうな表情。ああ、私もここに戻りたい、という思いが日増しに強くなりました。でも同時に、考えてしまった。私はこんなふうに、とびきりの表情で仕事に向き合ったことがあるだろうかと。楽しく、やりがいをもって仕事をする人たちに、胸を張って見せられるだけのバックグラウンドを持っているだろうかと。ここまでの5年間、私は一体、何をやってきたんだろう…

10月下旬に、業界でも名のある会社から採用内定を頂戴しました。苦節5年（そうか?）、やっとあの業界に戻れる、旅行業界でのキャリアを再開できる…。すごく嬉しかったし、周りの人も祝福してくれました。
でも。いざ現在の職場に切り出すとなると、なぜか逡巡してしまったのでした。いまの会社は、広く言えば編集のお仕事。でも業務内容は多岐にわたっていて、原稿を書いてゲラにして、という作業だけでなく、スケジュール管理、予算管理、そして営業して仕事を取ってくる業務もあります。この仕事を取ってくるのがどうも苦手で、たぶんここから逃げ出したいと思ったんじゃないかと。でも考えてみたら、4年も働いている間に、当初できなかったことが少しずつできるようになっていったり、苦手な分野だからって勉強できることはいっぱいあったり、職場にも魅力的なスタッフがけっこう（けっこう!?）いたり。バッサリ切り捨てて次のステップに進むのも一つの選択肢だし、ここでもっと勉強すべきことがあるならそれを吸収するのも一つの選択肢。いやー、悩みました。
こういうとき私はたいてい、心の声に従うというか、風が吹いたほうに行ってみる、という選択をします。自分の人生は自分で切り開いていくもの、でもどうしても判断つかないときは、周りに聞いても決めてくれない。アドバイスはくれても最終決定はしてくれない。そんなときはもう、エイヤで判断するしかないと思ってます。それで後悔したことってほとんどないし、そうやって人は運命に導かれていくんだとも思います。が、しかし今回ばかりはどうも判断つかず、グズグズしていたのでした。

最終的には弊社社長の猛烈な慰留に根負けしました。現在の会社の状況、中長期的なビジョンとそれを埋めていくためのロードマップ。今抜けられると困る、と演説されました。人生の先輩の、自分よりもよっぽど修羅場をくぐってきたような人のこういう説得に、うっかり乗ってみるのもアリかなと、そう思いました（いつか誘拐されるぞ…）。いざ決断してみると気分サッパリ、よその会社で話を聞いてもらえたことは自分を見つめなおすキッカケにもなったし、採用内定いただけたことは自信になったし、現在の会社ともいろいろ意見をぶつけ合えてよかったし。なんかひと暴れして気が済んだ感じ。残ると決めたからには全力投球で仕事します。
…と、いうわけでご心配いただいた皆様、すみませんでした。結局モトサヤです。今後とも引き続き、よろしくお願いいたします。

ところで社長の話、不覚にも心に残ってしまった瞬間がありました。ウチの社長、ぶっちゃけると実はあんまり、どこまでが本気でどこまでが冗談なのか分からないところがありまして、こちらも話半分で聞いてたりするんですが、私の文章力については以前からやたらと評価してくださってる。自分では、文章を書くのは好きだけど才能もないし、センスもないし、商品としての価値はまだまだ、と実感しているのに。今回、ウソかホントか「ボクはキミの書く文章、好きだよ」って…
いやー、ウソかホントかなんて、この際どうでもいいです。なんかこのフレーズに殺されました。顔がきれいだとか、歌が上手だとか言われるよりも、このフレーズのほうが心に響きます。経験も自信もないクセに、上手になりたいって必死になってるから余計に。この科白だけでごはん3杯くらい食べられると思います。実際にはあまりに嵐のような慰留→残留決定だったため、お腹が痛くなって夕食抜きでしたが…

コメント 1

私もhilde-nanaちゃんの書く文章、好きだよ :)
by shoko (2006-11-04 23:47)