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優しい音 [その他見聞]

吉田朋代チェンバロリサイタル@大阪・イシハラホール(6月7日17:00開演)を聴いてきました。

こんなに仕事が立て込んでいる時期に大阪なんてとても無理、とご案内いただいた当初はお断りしていたのですが、会社と家の往復でクサクサしているからこそ、チェンバロの音色で心を潤して、ついでに大阪観光&食いだおれして来てしまえ! と一念発起、日帰り弾丸ツアー決行となったのでした。

関西在住のチェンバロ奏者・吉田朋代さん。
ご主人のSさんと合唱仲間だったのがご縁で、数年前に知り合いました。
それはそれはもう美人さんで、しかもお話してみると大阪のノリで楽しく、
気は優しくて細やかな気遣いもできる、女性としても最高に魅力的な方。
Sさんとのお付き合いが長い私としては、
なんでこんな立派で素敵な人がお嫁に来てくれたんだろうと素で疑問(爆)。
でもやっぱりお似合いのご夫妻なんだよなあ。
この日もご主人は、来場者の皆様に甲斐甲斐しくご挨拶して回っておいででした。

演奏会のテーマは「ドイツ・バロック紀行 バッハの源流をめぐって」。バッハ以前のドイツの作曲家とバッハ自身の作品から、ドイツ・バロックの流れを辿っていきます。
チェンバロって何となく、ドイツというよりもフランスのイメージがあって、どうしてなんだろう、ドイツはオルガンかフォルテピアノなんだよなあ。チェンバロ協奏曲なんかでも、やっぱりちょっとフランスの風が薫ってきてしまう。…ような気がする。そこをどんなふうにお料理するのか、それ以前に朋代さんのチェンバロじたい聴くのが初めてなので、どんな音色を出すのかわくわく。

ピンクにお花のたくさんついた、でも華美になり過ぎないドレスで朋代さん登場。チケット完売とあって補助席に至るまでびっちり埋まった客席は、息を呑んで最初の音を待ちます。
鳴り出した音は、いろんな意味でたまらなく引き込まれる音色でした。

音楽って再現芸術だから、当時の演奏がどうだった、当時の音はどうだった、といくら考えても、やっぱり演奏している「今」のものでしかない。演奏解釈や音の出し方にしても、演奏家が100人いたら100通りあるわけで、そこに音楽の楽しみもあるし、苦しみもあるんだと思う。「今」「その人」の音を出すところまで行くには、相当の訓練が必要だし、いろんな葛藤もある。
曲を仕上げること。一つ一つの音に意味を与えること。全体としての楽曲を自分の言葉として語るところまで持っていくこと。
たとえば毎日、鍵盤の前に座ったときに感じる、手足が竦むような気分とか、弾いても弾いても技術的に前進しなくて、気が遠くなる感じとか。そういうものを乗り越えながら、曲を仕上げていくのって本当に大変なことだと思う。
今回の演奏は、そんなふうに自分と向き合いながら、自分の音や自分の演奏を探しながら、同時に弾くことを愛し続けている朋代さんの姿が、良くも悪くも無防備にさらけ出されている感じがして、何だかたまらない気持ちになりました。
根っこにある優しさとか、意外に肝が据わってる感じとか、緊張を楽しんでる感じとか、客席の後ろのほうまでダイレクトに伝わってくるのが素直で微笑ましくて。こういうチェンバロ、私はすごく好きです。

技術的なことは私にはよく分からないですが、チェンバロがこんな風に、弾く人の「心」を正直に音に乗せる楽器なのだということも痛感したし、同時に各々の作曲家の個性や魅力も損なわれずに伝わってくるのが面白かったです。
楽器はフランスくさいのに作品はドイツもの、というのも、うまいこと解決されているように聞こえました。変にフランスっぽさが主張するでもなく、典型的な「ドイツのおじさんサウンド」がちぐはぐに響くでもなく。作曲者と向き合っているというよりも、ここに関しては居並ぶおじさん達を手玉に取っている感じでした。
もっとチェンバロで「語れる」ようになったら素敵だろうと思うし、ご本人もそれを目指していらっしゃるのかなという印象を受けました。もっといろんな作品を聴いてみたいな。チェンバロじゃないナマの「語り」も、またそのうち…

プログラム的には、オルガン作品ではおなじみの作曲家たちのチェンバロ曲を聴けて、彼らの違った一面を垣間見たような、かなりトクした気分でした。特にブクステフーデなんて、あんなオルガン曲をつくる人が…くーっ!! こっちが照れそうなくらい可愛かった~。あとは私の中で「怖いおじさん」のイメージがある(なぜ…)ベームは、チェンバロ曲もやっぱり怖かった。
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コメント 2

おすぎ

早速アップしてくださりありがとうございました!
実は連絡をいただく前にすぐに気づいて読ませてもらったんですが、来月のリサイタルを控えてバタバタしていて、コメントするのがすっかり遅くなってしまいました!ゴメンナサイ(泣)
ホントに先日はわざわざ東京から駆けつけてもらって、ありがとうございました☆

表面的な感想じゃなく、演奏者の内面まで見通す深いレベルの感想(評論?)を書いてもらって光栄です。
朋代もすぐに読ませてもらって、よくこれだけ聴き取れるもんだとずいぶん感心していました。彼女も中野さんのリサイタルで東京へ行ったり、ローランドの電子チェンバロ(!)のプロモーションの仕事が入ったり、ここしばらくバタバタしているんでコメントできていませんが、また今度ゆっくりお話ししたいと言っています。
(それにしても、ちょっと褒めすぎとちゃうの…笑)
確かに演奏というのは、その人の人生そのものが見えてしまうことがありますね。隠そうとしても隠しきれない、その人そのものがさらけ出されてしまう、そういう怖さがある気がします。
本人はまだまだと言っていますし、確かに本番では普段しないようなミスがあったり、平常心を保てなかったりとまだまだ課題がありますが、回を重ねるごとに着実に進歩していることは間違いないと思います。
私もブクステフーデのチェンバロ曲は今回初めてでしたが、何ともチャーミングな曲ですよね。私はあの曲の演奏がベストだった気がします。

いつか「東京公演」ができればいいんですが(笑)それはまだまだ先の話になりそうです。またよかったらついでの用事を作って「遠征」してやってください!どうもありがとうございました♪


by おすぎ (2008-06-19 16:19) 

hilde_nana_

Sさん、またの名をおすぎ様、訪問&コメントありがとうございます。
また今回は演奏会のご案内、ありがとうございました。

そうなんですよね、演奏ってその人の人生が出てしまう。そもそも何故その楽器を選んだのか、またはその楽器に魅入られてしまったのか。それってきっと、どう生きたいか、どう生きようとしているのかに少なからず繋がっているのかもしれないです。

新大阪から神戸・宝塚方面へ一歩も踏み出さないという、ほぼ人生初の体験にどぎまぎ。ある意味ドイツ行くより緊張しました。
今回はあまりゆっくりお話しできず残念。また関西方面へ遠征した際は構っていただけると嬉しいです。
by hilde_nana_ (2008-06-20 21:49) 

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